ICTを用いた国語科教育
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国際標準の「読解力」の育成に有効なハイパー意味マップ


ホーム>実践報告(マッピングを用いた語彙指導_2011)

ハイパー意味マップ関連原著


1.実践の概要

生徒の語彙力を高めるための実践として、帯単元「言葉と出会うスピーチ」を行った。これは、スピーチとマッピングをセットにした活動を、授業の最初の10分に組み入れるというものである。
 実践の検証は、単元に入る前と26日後の生徒の語彙力を比較することで行った。語彙力の計測は意味マップ法(注1) によった。

2.対象学年及び生徒の実態

図@マッピングシート・図A「世界」をトピックとするマップ(ウェブ上なので、実態の詳細は省略します。)・・・このような実態から、生徒の強みである「話すこと」の言語活動のうち、比較的興味を持って取り組むことができる「スピーチ」を活動の中心として単元を組むこととした。また、小規模校であるため、実践の対象は全校生徒とした。

実 践の効果を検証するには、実践の前後の語彙力を比較することが必要である。そこでまず、実践前の生徒の語彙力の実態を把握した。生徒の語彙力を捉える手法としてはマッピング(意味マップ法)を用い、マップを分析することで、生徒の語彙力の分析・評価を行った。実際の授業では、まずマッピングの仕方を知るための練習を二回行い、その後、以下のような手順でマッピングを行った。(【マッピングの手順】および図1・2参照)

マッピングの手順
(マッピング用紙を配り、学年、組、番号、今日の日付を記入させる。)
T:これから先生がトピックとなる言葉を言います。言ったのと同時に計測を始めます。マッピングの時間は2分間です。それでは用意はいいですか。
T:風
(2分間計測する)
T:終了です。書きかけの言葉だけは最後まで書いてください。
T:トピック以外に記入した言葉の数を数えて四角の中に記入してください。

初回のトピックは、全校統一したものとして「風」、学年ごとのトピックとして、1年生「心」、2年生「友達」、3年生「世界」とした。学年ごとのトピックは、実践の最後に行うマッピングでも同じものを用いて変容を確かめた。(表4参照)
語彙実態の計測は、量的(語数)・質的(語の認識パターン)両面から行った。語数は単純にトピック以外の語の数を計測し、語の認識パターンはマップの類型 (注2)を分類して評価した。

語数の平均・最大・最小は(表1)の通りである。

マップの類型は(表2)および(表3)にまとめた。(表2)はトピックの保持性の観点から分析した結果を、(表3)は語の構成方法に着目して質的評価を行った結果を表す。例えば、(表2)の「大旅行」は、マッピングの過程でトピックから著しく逸脱していくもの、「小旅行」はトピックからの小さな逸脱を繰り返すもの、「替え玉」は別のトピックを作ってしまうものを表す。(表3)ではマップの構成の仕方を類型化しており、左から右に行くにしたがってより高次の構成(=豊かな語彙)だと考えられる。

表1:初回のマップの語数(2回の平均)
  平均 最大 最小
1年生 12.24語 22語 1語
2年生 10.75語 23語 5語
3年生 13.76語 22語 6語

表2:トピックの保持性(初回)
  分析不能 大旅行
grand tour
小旅行
excursion
替え玉
masquerade
1年生 5.9% 20.6% 32.4% 8.8%
2年生 0% 29.2% 29.2% 12.5%
3年生 0% 13.2% 23.7% 18.4%

表3:語の構成(初回)
  衛星
satelllites
S.P.
satellites&pine
線香花火
pine
S.W. P.W. S.P.W. ネットワーク
weaving
カテゴライズ
categorize
1年生 35.3% 23.5% 8.8% 0% 0% 0% 5.9% 0%
2年生 29.2% 8.3% 8.3% 8.3% 0% 0% 0% 0%
3年生 28.9% 34.2% 0.5% 2.6% 2.6% 2.6% 0% 0%

3.指導の実際

(ア) 実施時期と回数

実施時期・・・ 6月13日(月)から7月8日(金)まで(26日間)

授業回数・・・ 1年生13回・2年生12回・3年生9回

(イ) 実施方法

@ 単元名 「言葉と出会うスピーチ」(帯単元 約10分)

A 手順 以下のような手順を生徒に示して行った。

1、紹介したい言葉を選ぶ

@出会う!

日常生活や読書を通して、会話・本・新聞・テレビなどの中から「いい言葉だなあ」・「素敵だなあ」・「豊かだなあ」と思った言葉や、「初めて聞いた(知った)」・「そんな言葉があるのか」という感動や発見があった言葉を見つけましょう。 ・・・出会う

A 調べる

選んだ言葉について、次のことを調べる。 ・・・深める

ア、その言葉を掘り起こす(意味)→辞書を使って意味を調べる。
イ、その言葉を生かす(用例)→用例を二つ以上調べる。
ウ、その言葉を広げる(熟語・同意語・反意語・類義語・連想して広げる)

2、スピーチ ・・・伝える

@ わたしが紹介したいのは、「   」という言葉です。(板書)
A この言葉は「   」で見つけました(聞きました・出会いました・・・など)。
B 選んだ理由は、・・・からです。(理由や感想を言う。)
C この言葉の使い方は・・・などがあります。(用例を示す。)二つ以上
D この言葉を使った熟語は(その他同意語・反意語・類義語など)・・・です。
E 質問はありますか?
F 以上で終わります。

3、マッピング・・・受け取る

発表者が紹介してくれた言葉から連想できる言葉をマッピングする。(2分)

生徒が行ったスピーチで取り上げた言葉およびマッピングのトピックは(表4)の通りである。初回と最終回は、評価のために行ったマッピングのトピックであり、2回から13回は生徒がスピーチの中で紹介した言葉である。

表4:トピック一覧
  1年生 2年生 3年生
初回 風・心 風・友達 風・世界
2回 酔生夢死 豊か 素直
3回 古色蒼然 躊躇
4回 十人十色 奇跡 相棒
5回 塞翁が馬 ポジティブ
6回 虚心坦懐 十人十色 世界
7回 美々しい 一石二鳥 理路整然
8回 千変万化 花鳥風月 頑張る
9回 一挙両得 猿も木から落ちる 獅子奮迅
10回 怪力乱神 謙遜 天使
11回 奇々怪々 一喜一憂  
12回 徹頭徹尾    
13回 流言飛語    
最終回 夏・心    

4.成果や生徒の変容

(ア) 量的分析

最終回に行ったマッピングの平均語数は、1年生が16.59語(+4.35)、2年生は13.00語(+2.25)、3年生は15.39語(+1.63)であった。トピックの保持性が低いマップを除外して計測した結果(−Gでの差)は、1年生で+5.48語、2年生+2.52語、3年生+2.09語となった(表5)。このデータのみから一般化することは早計だが、下学年ほど語の獲得がしやすいとか、辞書引きや漢字練習などの基本的な学習習慣が身に付いていたり、言葉に対する興味関心が高い生徒ほど語の獲得がしやすいと考えることは、教師としての経験から考えて十分納得できることだと思う。

表5:最終回のマップの語数(2回の平均)
  平均 最大 最小 初回との差 grand tourのマップを除外した上で
初回との差
1年生 16.59語 33語 5語 +4.35語 +5.48語
2年生 13.00語 19語 5語 +2.25語 +2.52語
3年生 15.39語 25語 8語 +1.63語 +2.09語


(イ) 質的分析


最終回のマップを質的に分類すると、「分析不能」および「大旅行」が0件となり、生徒のトピック保持性が高まったことがわかる(表6)。また、マップの類型化によって評価してみると、表7の下線部の数値が増えていることから、語のとらえ方が多面的になり、意味的広がりを持って捉えられるようになっていることがわかる。つまり、語彙の豊かさという点からは、より豊になっていると言える。

さらに注目すべきことは、表7の太字部分に示されるように、トピックから派生させた語をカテゴライズしようとしているマップがあることである。これは、マッピングの過程で連想的に浮かんだ言葉を上位概念(メタ言語)を用いて構成するということであり、トピックに纏わるメタ言語が獲得された一次元高い語彙力だと評価できる。

以上のようなマップの質的変容を下のようにグラフ化した。グラフ@が初回のマップを質的に分析したもの、グラフAが最終回を質的に分析したものである。


語彙をどう捉えるかということは語彙指導においてベースとなるところだが、語彙を「意味的関連性において構成されたネットワーク」だと考えると、語彙指導が最終的にめざす語彙力とは、トピックをカテゴライズすることができる力であり、言い換えるとトピックから立体的なマップを構成することができる力であると考えられる。そういう立場から先のグラフを比較してみると、グラフ@からグラフAへは明らかに質的な変容が起こっており、恣意的な連想によって語彙が構成されていたものが意味的関連によって構成されるようになったといえる。また、上位概念(メタ言語)を用いて立体的なマップを作ろうとする傾向も見え始めている。このような質的変容、とりわけメタ言語の獲得が一歩進んだことは実践の成果として捉えてよいと思う。

表6:トピックの保持性(最終回)
  分析不能 大旅行
grand tour
小旅行
excursion
替え玉
masquerade
1年生 0% 0% 32.4% 17.6%
2年生 0% 0% 4.2% 16.7%
3年生 0% 0% 10.5% 18.4%

表7:語の構成(最終回)
  衛星
satelllites
S.P.
satellites&pine
線香花火
pine
S.W. P.W. S.P.W. ネットワーク
weaving
カテゴライズ
categorize
1年生 50.0% 41.2% 5.9% 2.9% 0% 0% 0% 2.9%
2年生 37.5% 37.5% 25.5% 0% 0% 0% 0% 0%
3年生 36.8% 31.6% 15.8% 2.6% 2.6% 0% 2.6% 5.3%


5.今後の課題

スピーチの実践においては、学年によって選材の方法に特徴があった。新しい言葉と出会うことに意欲を持ち、紹介したい言葉を辞書や新聞から選んでくる1年生と、日常生活の中、特にTVドラマやアニメから選んでくる2・3年生とでは、学習効果に自ずと差が現れるのではないか。そういう生徒の実態に対応し、できるだけよい言葉とよい出会いをする機会を仕組むことが必要だと感じた。

マッピングの実践においては、生徒のトピック保持性を確かめたいという意図から、あえてトピックからの逸脱を防ぐ手立てを取らなかった。しかし、語彙指導の立場からはトピックからの逸脱を防ぎ、マップの質を高めていけるような手だてを工夫する必要があると思う。

また、豊かな語彙をめざす理由は豊かな言語表現や豊かな言語生活につなげるためであるから、語彙指導が語彙力の育成だけで終わるのではなく、表現につながっていくような実践に仕上げていくことも必要だと思う。今後、作文やスピーチ、読解と一体となった単元の開発を目指したい。

最後に、マッピングは、語彙構成のモデルとして捉えられ、語彙力を養う上で有効であるばかりでなく、生徒の語彙力を計測するツールとしても有効であると言えるが、紙の上でのマッピングは基本的に二次元であるため、高次の語彙構成に対応するのが難しい。しかし生徒は、語彙力が高まるにつれて、上位概念・下位概念を自覚的に用いて語彙を構成するようになるし、そのような立体的な語彙の構成力を獲得させることを、語彙指導としては当初からから目指しておくべきだと思う。なぜなら、メタ言語を獲得し、カテゴライズされた語彙が構成できることは、国語力にとっても思考力にとっても一次元高い能力を保障することになるからである。

メタ言語を獲得させたり、カテゴライズする力を養うことは容易でではないと思うが、三次元のマッピングツール(注3) を日常的に用いることができれば、語彙指導における新生面が開けると思う。今後、より高い語彙力の育成が可能な三次元のマッピング (注4)を用いた実践の方途を探っていきたい。

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  1. 意味マップ(法)は塚田泰彦(筑波大)によって翻訳・確立された国語におけるマッピングの技法である。
    塚田泰彦 読むことにおける語彙の問題について−意味マップの作り方を中心に−上越大学国語研究 1989年
    塚田泰彦 読みの事前指導における意味マップの活用法について 国語教育 1989年
    塚田泰彦 編著『国語教室のマッピング』(教育出版)2005年
  2. マップの類型は以下による。
    1.分析不能 語数が1つ以下のものやマップになっていないもの。
    2.語の連想がトピックから離れていく性質があるマップについては以下の4種に分類している。
     ア 大旅行・・・ トピックから出る枝が一本で、5階層以上のもの。
     イ 小旅行・・・ トピックから出る枝が2本以上で、4階層以内であるもの。
     ウ G.E. ・・・大旅行と小旅行の両方の性質を兼ね備えているもの。
     エ 替え玉 ・・・トピックから連想された語を新たなトピックにしてマップを作っているもの。
  3. 語の構成による類型
     ア 衛星・・・ トピックから複数の枝が直線的に伸びるもの。
     イ 線香花火・・・ トピックから複数の枝が分岐しつつ伸びるもの。
     ウ ネットワーク・・・ トピックから派生したノード同士が結びつけられているもの。
     エ カテゴライズ・・・・ 語どうしを上位・下位の概念でまとめているもの。
     オ S.P・・・ 衛星と線香花火の両方の性質を持つもの。
     カ S.W・・・ 衛星とネットワークの両方の性質を持つもの。
     キ P.W・・・ 線香花火とネットワークの両方の性質を持つもの。
     ク S.P.W・・・ 衛星と線香花火とネットワークの3つの性質を持つもの。
  4. CmapTools ihmc(Florida Institute for Human and Machine Cognition) http://cmap.ihmc.us/ などがある。
  5. 「パーソナルコンピュータを用いた読むことの学習−意味マップの応用−」(「読書科学」日本読書学会第39巻第4号 1995年)
    「コンピュータを用いた読解の学習」(「月刊国語教育」東京法令出版 Vol.16 No.11 1997年)


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